ランドスケープ設計・造成から入る庭づくり|二番通り酒店の森の庭
前回の記事 では、この土地で何を見たかを書きました。60年かけて森に戻った土地、シルト質の土、掘れば出てくる丸い石、そして礼文塚川。
この記事は、その続きです。何を見たかではなく、何が、どの順番で決まっていったかの記録です。
二番通り酒店の敷地では、庭だけを請け負ったわけではありませんでした。ランドスケープ設計・造成の計画から、庭の設計者として関わっています。造成の高さ、水の抜き先、車と人の通り道、そして庭。
ただ、こちらで決めたことはそれほど多くありません。多くは、この土地と施主がすでに持っていたものです。

残す木を決めたのは、施主でした
最初にやったのは、図面を引くことではありませんでした。
一緒に森を歩き、木の見方をお伝えしました。幹の太さや樹形だけでなく、その木が倒れずに立っていられる根の張り方、隣の木との距離、将来どこまで枝が広がるか。どういう木なら残せて、どういう木が難しいのか。
そのうえで、決めたのはケンさんユキさんご夫妻です。
何日もかけて、ご自身で森の中を歩き回っていました。この木は残したい。これはどうだろう。急がずに、時間をかけて。
自分たちが毎日見ることになる木です。設計者が机の上で選ぶより、そこに立つ人が選んだほうがいい。そして畑を何年も見てきたお二人は、木の見方を覚えるのも早かった。
そうして「残す木」が決まったあとに、建物の図面が引かれています。その図面が乗る条件——建物がどこに収まりうるかは、残った木がすでに決めていました。
森を切って建物を建てたのではなく、森の隙間に建物を差し込んだ。前回そう書いたのは、この順番のことです。

高さは、土地がすでに持っていた
この敷地は、大きなミズナラに向かってなだらかに下がっています。60年かけて森が戻るあいだ、水はずっとこの方向へ流れてきました。
店舗の玄関前を基準に測っていくと、いちばん高い南側で +1,400、いちばん低い北端で −1,850。敷地の端から端まで約3.2mの高低差があります。傾斜としては、歩いていて気づかない程度のゆるやかなものです。
ランドスケープの計画で最初に決まるのは、平面ではなく高さです。ただこの土地では、高さをこちらで決める必要がほとんどありませんでした。土地がすでに持っている傾きが、答えを出していたからです。
店舗、倉庫、アプローチ、庭。すべて、もとからある一本の傾きの中に並んでいます。
造成のレベルは、設計して決めたというより、読んだら自ずと決まったというほうが近い。地形に逆らわず、森の形に合わせていった結果です。土を大きく動かさずに済んだのは、そのためでした。


道は、最初からあった
ぽっかりと空いた広場に向かって、農道のような道が一本、最初から通っていました。
重機の搬入も、この道をそのまま使っています。新しく開いた道は一本もありません。造成のために木を切って通路をつくれば、残すと決めた木の意味がなくなります。すでにある道で入れるなら、それが正解です。
残す木が決まったということは、重機がどこを通れないかも決まったということでした。根の張っている範囲を踏ませない。旋回で幹を傷つけない。一度踏み固めた土が元に戻るまでには、何年もかかります。
その制約の中で、既存の道は唯一の動線でした。土地が、施工の順番まで決めていたことになります。

空いた場所を、どう読むか

農道に沿うように、森の中にぽっかりと空いた場所がありました。木の根がほとんど張っていない、青みがかった、水の抜けない土。
平面図の上では、ここは魅力的な場所に見えます。木を一本も切らずに済み、重機も入り、面積も取れる。実際、当初の計画ではこの空いた場所に建物を建てることが検討されていました。設計の考え方として、間違ったやり方ではありません。
ただ、地面を見ていくと、別の読み方が出てきました。
ここは、余白ではなかった。60年かけて森が戻った土地の中で、そこだけが戻れなかった場所です。木が育たない理由が地面の下にあり、それが表面に出ている。
建物を建てれば、その問題は基礎の下に隠れます。隠れるだけで、なくなりません。周囲の森が抱えた水の行き場も、そのまま残ります。
だから、ここを庭にしました。土地がいちばん困っている場所を、手を入れる場所として選ぶ。石積みのベンチで水と空気の道を通したのは、この読み方があってのことです。
そして建物は、農道の突き当たりに置きました。道がすでに向いている方向の、いちばん奥です。倉庫も同じ並びに収めています。
木を残すために建物の位置を探したとは、前回書きました。もう少し正確に言えば、問題のある場所を庭に空け、健全な森の隙間に建物が収まったということです。


円という形について、話したこと
なぜ四角ではなく円だったのか。設計の理屈だけで決めたわけではありませんでした。
ケンさんとは、ワインの話をしながら、形の話をしていました。
ビオディナミでは、調合剤を水に入れて撹拌するとき、渦をつくります。回して渦を立て、逆に回して崩す。それを長い時間続ける。撹拌という作業が、そのまま円運動です。
ジェオビオロジーの話も出ました。土地には流れがあり、その流れを読んで建物や畑の位置を決めるという、フランスの造り手たちのあいだにある考え方です。
そういう話をしながら、この広場は円だろう、と決まっていきました。
私自身は、こうした考え方を科学として説明できる立場にはいません。ただ、ワインをつくる人たちが長く共有してきた感覚があり、その感覚に沿ってできたものを、ケンさんはこの店で扱っている。その店の庭を、真四角に切る理由もまたありませんでした。
半径15mは、テープを引いて決めた
庭の範囲は、直径30mの正円です。
閉じた場所をつくるのに、円は理にもかなっています。同じ面積を囲うのに、円はいちばん短い距離で済む。遮るべき長さが最小になる。
問題は、その大きさでした。
当初の計画では、もう少し大きな円で考えていました。図面の上では、そのほうが伸びやかに見えます。
決め方は、単純です。現場でメジャーを引きました。中心から外へテープを伸ばし、そこに立ってみる。囲われた感じがするか、開きすぎていないか。外周に木がどう掛かるか。
心地よかったのが、半径15mでした。
図面の上で数字を決めて現場に持ち込むのではなく、現場で身体が答えを出して、それを図面に落とした。当初案より小さくなっています。広ければいいというものではありません。閉じた場所をつくるのだから、大きすぎれば閉じません。
そして、円のすぐ外——4、5m離れたところに、あの大きなミズナラが立っています。この敷地の斜面が向かっていく先の、いちばん大きな木です。囲いの中には入りませんでした。閉じた広場の縁の向こうに、森の主が見えている。

なぜ、閉じたかったのか
石積みのベンチの背後には、土を盛って築山をつくっています。
これは、土の置き場所に困った結果ではありません。この広場を、閉じた場所にしたかったからです。
依頼は最初から一言だけでした。「この場所に最高のワインが飲める場所をつくってください」。
最高の一本を開けるとき、必要なのは眺めのよさだけではありません。人の視線が抜けない、囲われた感覚です。開けた場所でグラスを傾けても、どこか落ち着かない。閉じているから、その一本に集中できる。
周りは森で、松などの常緑樹も混ざっています。ただ、葉が落ちる季節には視線の通る方向が出てくる。そこを埋めるために新しく木を植えれば、効くまでに何年もかかります。
地形なら、積んだ日から閉じます。
築山は、葉が落ちたあとの季節に効く目隠しであり、この広場を外から切り離すための壁です。石積みのベンチは、その内側の縁に沿って座る場所になっている。背中に土手があり、正面に森がある。囲われた中から、森を見る。

掘って出たものを、選り分ける
基礎を掘れば、大量の土が出ます。この土地の場合、そこに300mmから1000mmの丸石が混ざっている。ふつうは、まとめて場外へ運び出して処分するものです。
ここでは、掘りながら選り分けました。
発生土はふるいバケットにかけ、石と土に分けていきます。重機のバケットそのものが篩になっていて、掘削しながら二つの材料に仕分けていく工程です。

ふるいバケットで発生土から石を取り出す 地中に埋まっていた石 地中に埋まっていた石
選り分けた石は、円の入口に敷き詰めました。
この土地の地層をつくった川と海の丸石が、そのまま足元の舗装になります。買ってきた砕石ではなく、その真下から出てきた石です。踏めば水を通し、空気も通す。仮設計画の段階で、敷地の北西に「石置場」の位置をあらかじめ確保してありました。
掘りながら思いついたのではなく、着工前から、出た石を使う前提で計画していたということです。
残った土が、あの築山になっています。

もちろん、出た量のほうが多く、一部はダンプで場外へ運び出しています。すべてを敷地内で使い切ったわけではありません。ただ、使えるものを選り分けずに全部捨てるのと、使えるものを拾ってから残りを出すのとでは、でき上がるものが変わります。
この庭の足元と地形は、この穴から出てきたものでできています。
そして築山には、もう一つ時間の役割があります。最初から完成した植栽をつくらず、イネ科のパイオニアプランツで土を少しずつほぐしていく。掘り返されたばかりの土が、根の力で数年かけて変わっていく場所です。

どこを歩いて、どう入ってくるか
外構の図面には、線を何本か引いてあります。地形でも構造でもなく、人の歩く経路です。
道路から敷地に入った人が、どこを通って店の入口にたどり着くか。どの角度で円が見えはじめ、どこで森が視界に入り、どこで建物が正面に来るか。経路を変えると、その順番が変わります。
一本に絞る前に、何通りか引いて比べました。
採用したのは、円の縁に沿って回り込む経路です。まっすぐ横切って入るほうが距離は短い。けれどそれでは、庭を通り抜けてしまいます。
縁に沿って歩くと、円が開いたまま視界の中にある。歩きながら、閉じた広場の全体が見える。そして最後に、建物の入口へ向き直る。
庭は、立ち止まって眺めるためだけのものではありません。歩いている最中に体験するものです。同じ広場でも、どこを歩くかで見え方がまったく変わります。
そして、掘って出た石を敷いたのは、この経路の足元です。訪れた人が最初に踏むところに、その敷地の地面から出てきた石があります。

店舗へ向かう少し長いアプローチ 石畳みの手前、敷地に足を踏み入れる 建物までの石畳み
三五工務店との分担
建物の施工は、地元の三五工務店。動線、排水、そして庭については、こちらで計画を立てています。
とはいえ、高さについて決めたことはほとんどありません。地形に逆らわず、森の形に合わせていけば、レベルは自ずと決まりました。
この現場がうまくいったのは、誰が何を決めたかが明確だったからではなく、先に決まるべきものが先に決まっていたからだと思います。残す木が決まり、高さが決まり、水の行き先が決まってから、建物が乗った。
外構を建物の後に残った場所として扱うと、この順番は成立しません。
一年後、枝が円の中に伸びてきた
施工から一年が経ちました。
石積みのベンチの基礎には、約1mの砕石層が入っています。背面にも石積みと砕石を連続させ、地中へ水と空気を通すための構造をつくりました。地表のためではなく、地面の下のためのものです。
その方向に向かって、クルミ、イタヤカエデ、ハルニレが枝を伸ばしはじめました。
円の外に立っている木が、円の中へ枝を出してきている。地上で枝が伸びるということは、その足元で根が動いているということです。水と空気が通る場所を、木が見つけた。
この土地の木が、この構造を使いはじめた。
もともとこの場所は、木の根がほとんど張っていないところでした。60年かけて森が戻るなかで、そこだけ戻れなかった。青みがかった、水の抜けない土。そこに通した道に、周囲の森が反応しています。
クルミもハルニレも、川沿いの湿った土地に多い木です。礼文塚川の流域を歩いて、この土地に合う植物を探したことは前回書きました。探しに行くまでもなく、すでにこの敷地に立っていた木が、いちばん早く答えを返してきたことになります。
前回、急いで完成させた庭は土がついてこない、待てば土が育つ、と書きました。一年は、その答え合わせには短すぎる時間です。3年後、5年後にどうなっているかは、まだ分かりません。
ただ、はじまってはいます。石を積んだときに意図したことが、地面の下で起きて、地上に出てきた。
庭が、土地に受け入れられはじめた一年目です。
一年前、まだ円の中に枝が入って来ていない 一年経過して排水層伝いに枝を伸ばしはじめた 一年経過して枝を伸ばしはじめた木々
ランドスケープ設計・造成から入るということ
庭づくりは、植物を並べる仕事ではありません。
どの木を残すか。どこに水を落とすか。どこを重機が通るか。掘って出たものをどう使うか。それらが決まったあとにようやく、何を植えるかの話が来ます。
そしてその多くは、設計者が決めるのではなく、土地を読めば決まっていました。造成が終わってから呼ばれる庭の設計者は、すでに決まってしまった地形の上で仕事をすることになります。この現場では、読むところから関わらせてもらいました。だから、庭が土地とつながっています。
森の中に引いた、半径15mの円。その寸法を決めたのは製図ではなく、そこに立ったときの感覚でした。そして円を満たしている石も土も、この場所を掘って出てきたものです。
その円の中へ、この土地の木が枝を伸ばしてきています。
スワローテイルガーデンでは、庭の設計施工に加えて、敷地全体のランドスケープ計画・造成の段階からのご相談をお受けしています。建築の計画が動き出す前が、いちばん効果の大きいタイミングです。


内部リンク:①森の庭づくりの記事/ドライストーンウォールの作り方/砧公園ガーデン
