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一本のワインから、庭をつくった ——物語のある庭づくり『Lisiere Rouge』

  • 1 日前
  • 読了時間: 4分
一本のナチュラルワインから着想した庭『Lisiere Rouge』。設計から施工まで、物語のある庭づくりの記録です。

Christian Ducroux(クリスチャン・デュクルー)「Exspectatia」。


きっかけは、一本のワインでした。


Christian Ducroux(クリスチャン・デュクルー)の「Exspectatia」。ボージョレで馬を入れ、ビオディナミで畑を耕す造り手のもの。瓶には、なだらかな丘の稜線がそっと描かれている。


施主のIさんは、大のナチュラルワイン好き。その方の庭を考えるとき、まず頭に浮かんだのがこの一本でした。“Exspectatia” はラテン語で「期待」「待つこと」を意味する。芽吹きを待ち、実りを待ち、開くのを待つ。ワインづくりは待つことの積み重ねでできている——この言葉を、庭そのもののコンセプトに据えることにしました。木漏れ日の下で、Iさんがゆっくり赤を飲むための庭を。


そしてもうひとつ、密かに決めていたことがある。庭が完成したら、このワインをIさんに手渡す。庭の出発点になった一本を、最後に渡す——そういう演出を、最初から思い描いていた。



「林縁にたたずむ赤」というコンセプト


ナチュラルワインをテーマーにした最初のコンセプトシート

設計テーマは「林縁にたたずむ赤」とした。林の縁——木立から開けた場所へ移り変わる、あの曖昧で豊かな境目を、敷地のなかに再現したいと考えました。


骨格には木漏れ日をつくるコナラを据え、アブラチャン、ジューンベリー、そよごを組み合わせて空間と高さの木陰を生む。その中層に、ヒュウガミズキやカシワバアジサイ、アナベル、スモークツリーといった低木で林縁の密度と季節感を持たせ、地表にはホスタ、ノジギク、クリスマスローズなどを散らし、揺らぎと時間の変化をつくる。


水彩の植物イラスト一覧
ナチュラルガーデンの元となる植物

季節ごとに、香りや光、そして「赤(Rouge)」が立ち上がる。春のアロニア、初夏のジューンベリー、秋の紅葉や実もの——一年を通して、異なる Rouge が現れる構成。ナチュラルワインが畑とその年をそのまま映すように、この庭も季節をそのまま映してくれる。



土の中に、もうひとつの風景をつくる



土壌断面図|ウッドチップ層/改良土壌/排水層/地山層

施工でいちばん手をかけたのは、目に見えない土の中。


雨をすぐに流さず、土中でゆっくりほどけていくように層を設計した。既存の地山の上に有機物による排水層をつくり、その上に生育と保水のバランスをとった改良土壌、いちばん上にウッドチップを敷く。林の床のように、湿度と微生物を保つための層です。仕上げの川砂利は、雨水をやわらかく地中へ浸透させる役割を持たせている。


雨水を受け止め、土中でゆっくり浸透させ、生き物がその水と空気を使う。地上の植栽と同じだけ、地下の環境づくりに時間を割いた。ビオディナミの造り手が畑の土を信じるように、ここでも土を起点に考えています。


Iさんと一緒に、石を積む 物語のある庭づくり



石積みの作業風景 

この庭には、私一人ではつくらなかった部分がある。林縁の足元を縁取る、小さな石積み。


ハンマーを片手に、石の表情をひとつずつ見て、向きを決め、隣の石とかみ合わせていく。一枚ごとに収まりが違うから、置いては外し、また据え直す。地道な作業だけれど、Iさんも隣にしゃがんで、一緒に石を選び、積んでいく。


自分の手で据えた石は、きっとこの先ずっと記憶に残る。完成した庭を「眺める」だけでなく、つくる時間そのものを分かち合えたことは、この仕事のいちばんの財産になりました。



完成形を、急がない



植栽完成予想図

この庭は、植えた瞬間を完成形にしていない。


高木は H2.0〜3.0m を7本。初期は光が多く軽やかな植栽とし、3年後に低木がつながり、5年後に木陰と林縁の層が完成するよう計画しています。

だから今は、まだ余白の多い庭。


それでいい、と思っている。“Exspectatia” ——待つこと。これから3年、5年とかけて、木陰と赤が少しずつ深まっていく。


最後に、一本のワインを


庭が仕上がった日。私はあのワイン——「Exspectatia」をIさんに手渡した。この庭の出発点になり、コンセプトそのものになった一本。


いつか木陰が育ったその下で、Iさんがこの赤を開けてくれたら。一本のワインから生まれた庭が、また一本のワインに還っていく。つくり手として、これ以上うれしい円環はない。


そしてこの庭がどう育っていくのか——それを待つ時間こそが、いちばんの楽しみになった。



庭づくりのご相談


Swallowtail Garden(スワローテイル ガーデン)


一邸ごとに物語のある庭を、設計から施工まで一貫してお手伝いしています。「こんな時間を過ごしたい」というイメージだけでも構いません。暮らしに寄り添う庭を、一緒に考えます。








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