東京パークガーデンアワード 第3回 『砧公園 てんとう虫たちの食卓』バンカープランツの様子
- Yudai Ono

- 11月4日
- 読了時間: 4分

― バンカープランツと多様な環境づくりで育む、虫たちのガーデン ―
冬の静けさが去り、春の気配が戻りはじめたガーデンで、去年の12月に仕込んだ“仕掛け”が少しずつ成果を見せ始めています。
この庭づくりでは、虫たちが安心して暮らし、季節を通じて命の循環が感じられる環境を目指してきました。特に「バンカープランツ」と「越冬場所」の2つの工夫が、ガーデンに豊かな生態系を生み出しています。
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バンカープランツと越冬場所の効果
冬を越す虫たちへの小さなシェルター
寒さの厳しい季節でも、てんとう虫など一部の昆虫は成虫のまま越冬します。
そんな虫たちのために、ガーデンの通路沿いに木の枝を重ね、厚く敷いたウッドチップと枯れ草で覆いました。これが、彼らの冬の“寝床”になります。
ウッドチップは保温性と保湿性に優れ、地中に潜る虫やトカゲなどの小動物にも快適な環境を提供します。
また、微生物の活動も促すため、土の中の生命循環を支える重要な素材でもあります。

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春に目覚めるてんとう虫の「食卓」
春になると、冬を越したてんとう虫たちが活動を再開します。
彼らの主食はアブラムシ。そこで導入したのが「バンカープランツ(Bunker Plants)」と呼ばれる植物です。
バンカープランツとは、アブラムシなどの小さな虫を意図的に引き寄せる植物で、天敵である肉食昆虫を庭に呼び込む役割を果たします。
つまり、アブラムシを完全に駆除せずに、“自然の食物連鎖”を庭の中に再現する仕掛けです。
アブラムシが一定数存在することで、てんとう虫やヒラタアブ、クサカゲロウといった益虫が定着します。
結果として、農薬に頼らず、庭そのものが自立した生態系へと成長していきます。

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アブラムシを「少しだけ」残すバランス設計
虫の世界では「ゼロ」が必ずしも理想ではありません。
害虫を完全に取り除いてしまうと、それを餌とする益虫が暮らせなくなります。
そのため、この庭ではアブラムシを“少しだけ残す”ためのバンカープランツを配置しています。
例えば、アブラムシがつきやすいノースポールやナスタチウム、カモミールなどは、ガーデンの一角に集めて植栽。
そうすることで、野菜や草花への被害を抑えながら、益虫の「食卓」を維持する仕組みができます。
この「てんとう虫の食卓」という名の取り組みは、虫たちの暮らしを支える小さなエコシステムでもあります。
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虫たちが集う庭づくり|多様な環境をデザインする
自然と共生するガーデンでは、虫たちが好む多様な環境の共存が大切です。
湿った場所、乾いた場所、陽の当たる場所、静かな陰――それぞれが異なる虫たちの居場所になります。
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湿地と乾地のバランスをつくる
作業通路はやや窪地に、植栽地は緩やかな丘にすることで、雨水の流れや保水性が自然に分かれます。
この地形の工夫により、水辺を好む虫や、日当たりを求める虫がそれぞれ自分の居場所を見つけられます。

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植物の高さを活かした多層空間
背の高いグラス類と低い草花を組み合わせて植栽することで、虫たちのための「立体的な住み分け」を実現します。
陰を好む虫たち、太陽を好む虫たち、それぞれが無理なく共存できる設計です。
風に揺れるグラスの隙間や、花の下の陰は、小さな命にとっての安全な隠れ家になります。

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地中の世界を守るウッドチップ
ガーデン全体を覆うウッドチップの層は、虫やトカゲが繁殖しやすい環境を整えるだけでなく、
土壌の通気性・保湿性を高め、ミミズや微生物といった土壌生物の活動も促します。
つまり、ウッドチップは「見えないところで庭を支える生態の基盤」でもあるのです。

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命の循環を感じるガーデンへ
「てんとう虫の食卓」は、虫たちが安心して暮らし、人と自然が共に息づく持続可能な庭づくりの象徴です。
この小さな庭の中では、冬の寒さに耐える虫がいて、春に花を訪れるハチがいて、夏にはトンボやカマキリが姿を見せます。
見た目の美しさだけでなく、虫や植物、微生物がつながり合う命の循環そのものをデザインすること――
それが、これからのガーデンづくりの理想だと感じています。


